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場所・内装

診療圏調査

ポイント

開業候補地での来院見込患者数を人口統計や受療率データなどを基にして、定性的、定量的に推定するのが「診療圏調査(マーケットリサーチ)」です。診療圏とは、自院に通院してくれる患者が見込まれる地域を設定したもので、自院を中心に円やアメーバ状のエリアとして定めます。とくに自院近く、きわめて来院患者率が高いエリアを「1次診療圏」とし、1次診療圏の外側で患者の来院が見込めるエリアを「2次診療圏」と分けて設定する場合も多いです。具体的には、診療圏内の人口に開業する診療科目の受療率を乗じてエリア内の患者総数を算出し、その患者数をエリア内の競合施設数シェアを加味して、自院の推定来院患者数を求めます。

1. 診療圏調査の概況

患者は医院の医療サービスによって健康を支えられますが、その逆に医院経営は患者数によって資金的な面を支えられます。ニーズのないところに事業が成り立つはずがなく、地域の市場性を長期的に見通し、来院患者数の動向を予測することで開業立地の妥当性を確認するのが診療圏調査(マーケットリサーチ)であり、具体的に手順に沿って次の調査に分けられます。

(1) 経営立地概要調査

開業予定地周辺の地理的条件など、全体を俯瞰できるように地図などを購入して視覚化し、人口の分布などの方向感覚と位置関係をイメージできるようにしましょう。また、その地図には、鉄道、バス、幹線道路などの交通条件、また、できれば通勤や通学、買い物など住民の生活動線を調査し、駅や停留所の位置、乗降者数、商店街などの人の流れを左右する要因を記入し、ひと目で全体的な地域特性をデータとして把握できるようにしましょう。

(2) 人口動態調査

人口動態調査として、開業地(予定地)周辺の人口、世帯数、年齢別人口、夜間人口・昼間人口の比率、過去または将来の人口の変動傾向などを調査し、医療マーケットとしての視点を加えることで全体像を把握しましょう。また、できれば、産業別就業者構成(職業別人口構成)などにより、住民のライフスタイルのデータも併せて入手し、開業候補地周辺の住民の横顔をイメージします。

(3) 診療圏の設定

開業候補地の周囲全体から自院の診療圏の設定を行います。この診療圏は、地域性を加味して患者が10~15分以内程度で来院でき、患者の来院確率が高いエリアを1次診療圏とし、その周辺で患者の来院が見込める地域を2次診療圏として設定します。

(4) 診療圏内人口調査

来院患者数を統計的に予測するには診療圏内(1次・2次)の人口を年齢別に把握する必要があります。これらの人口調査は、住民基本台帳など自治体の役所や図書館などで入手することができますが、できれば、昼間と夜間、男女別、年齢階層別データを揃えたいところです。また、専門のコンサルティング業者に依頼すれば、あらかじめ統計ソフトや文献・データがそろっており、速やかに入手できるので利用するのもよいでしょう。

(5) 診療県内の推定患者数調査

厚生労働省から発行されている患者調査報告による受療率を利用して、診療圏内全体で1日に診療所に外来通院するであろう患者総数を年齢階層別、男女別に算出します。受療率データは、厚生労働省が発行する統計書籍に記載されていますが、元データを診療科目別データに加工する準備作業など、若干の専門知識が必要となるので、一般的にコンサルティング業者や医療関連業者、会計事務所などに依頼して入手することが多いです。

(6) 近隣競合医院の調査

次に診療圏内における自院の競合医院を調査しましょう。具体的には、診療圏全体が把握できる地図上に競合が予測される自院と同じ診療科目の医療施設の所在地をプロットします。また、プロットした競合医療施設の内容を詳細に調査し、既存来院患者数の多少、診療時間など、競合医院のサービス内容がわかるリストを作成しましょう。

(7) 自院来院患者数の推定

最後に、診療圏内の患者総数をあらかじめ調査した競合医院でシェアし、その結果を自院の1日当たりの来院患者数として求めます。

上記の手順で診療圏調査を進め、得られた患者見込み数を資金計画に反映して、調査した開業候補地において経営的に採算が合う患者数が十分に確保できる立地であるかどうかの検証を行います。

このように、診療圏調査は開業希望医にとって最終的な立地を判断する材料となり、また、最近では金融機関も融資審査を行う上で重要な審査資料としているので、ほとんどのケースで作成しています。また、この診療圏調査結果は、開業後、計画どおりに見込んだ地域から患者が来ているかどうかについて、実際の来院患者の実績と計画地を比較し、広告のあり方など、経営改善の判断材料としても活用できるので、ぜひとも立地選定時に多少の費用をかけてもきちんとしたものを作成しておくことをお勧めします。

内装

設計・施工会社の選定と法的規則

ポイント

医院建築は、開業時のもっとも大きな買い物ですので、設計・施工業者の選定には慎重な検討を要します。とくに、細かい部分の工夫や配慮は実績の少ない業者では対応しきれないことが多いので、できれば多くの実績のある業者を選びたいところです。

また、医院建築にはさまざまな法的規制があります。土地購入前やテナント契約前に、ある程度専門家に事前相談しておく必要があります。

1. 依頼時の注意点

どの業者に設計を依頼するかを決める前に、可能であれば開業している医院を見学したり、先輩開業医の体験談を聞いておきましょう。イメージが具体的につかみやすくなり、建物規模や診療設備を決めるのに役立ちます。

設計の依頼先としては、建築設計事務所・建設会社・住宅メーカー等があり、それぞれに特徴があります。時間的に余裕があり、こだわりをもって好みのデザインを作りたいのであれば設計事務所であり、開業計画からアフターサービスまで一括して任せられるという点では建設会社や住宅メーカーに依頼した方が無難でしょう。

2. 医療建築の法的規制

医療建築に関する法規としては、医療法・建築基準法・消防法・各都道府県の条例などがあります。無床医院の場合、法的規制はさほど大きな問題となることは少ないですが、有床診療所を建築する場合は、法上特殊建築物として扱われるために、高い安全性が求められます。階段や廊下の幅、敷地の接道の長さなど、安全上の設備・仕上材などの条件が厳しくなるので、専門家との検討が必要になります。

また、消防法においては建物の規模により消火設備の内容が変わるので注意が必要です。医療法では、各室の面積、X線の防護措置、また患者さんのプライバシーの問題や医薬品の保管についても指導をうけることがあるので、事前に保健所と打合せをする必要があります。

医院建築の設計・デザインのポイント

ポイント

具体的な建築プランニングの第一歩は、敷地のゾーニングです。敷地周辺の環境や特徴を活かし、無駄なく効率的に設計したいところです。

また、医院の外観は院長の人柄や診療方針を表現するいわば看板代わりのものになります。地域性を加味し、好感のもてるデザインにしましょう。

1. 敷地のゾーニング時の注意点

ゾーニングとは、建物と道路の関係、周辺の環境・敷地の見え方などを把握し、医院の出入口、駐車・駐輪場スペース、医師・スタッフのアプローチを考慮して、建物の配置を決め、各室の配置をしていく作業のことです。

(1) 敷地の選定

診療所の敷地は、静寂で自然環境に恵まれたところが望ましく、診療圏の検討、診療科目の特性、法的制限、交通の利便性などを考慮したうえで選定することが重要です。

平面計画

ポイント

平面計画は医療サービスの効率性だけでなく、コミュニケーション、プライバシーの保護など、患者さんの視点からも十分な配慮がなされていなければなりません。

将来にわたって患者さんにとって快適であり、医師、スタッフにとっては使い勝手のいい空間が理想です。

1. 平面計画の注意点

医院建築の機能には、診察室・処置室などの診療スペースと、玄関・受付・待合室などの管理・運営に関わるスペースの2つに分けることができます。

これらのスペースをどのように配置するかが使い勝手のよい建築のポイントになります。患者さんの流れや、スタッフの動線などを配慮して十分に時間をかけシミュレーションしなくてはなりません。

診療方針・科目・敷地の形状などにより、もっとも効率よく、使い勝手のよい配置にしなければなりません。しかし、効率ばかりではなく、待合室など、患者さんが長時間利用する所にはゆとりのあるスペースを設けるなど、配慮も重要なポイントになります。

2. 各室の設計上の注意点

(1) アプローチ・玄関まわり

アプローチは患者が安全に利用できることが大切ですので、段差は極力ない方がよいでしょう。また、明るく、入りやすい工夫も必要です。

(2) トイレ・洗面室

トイレ・洗面室は男女別が望ましいが、スペース的に設置が難しい場合もあるでしょう。ですが、車椅子用のトイレは必ず設置したいところです。

トイレは清潔で機能的であることはもちろんですが、インテリアの工夫などもあるとよいでしょう。

(3) 待合室

患者さんが長くいる場所であるため、ゆったりと待てるよう、明るく開放的な空間にすることが大切です。待合室の注意点としては、椅子のレイアウトは玄関に対面しないこと、患者さん同士の視線が合わないよう工夫することなどが挙げられます。

(4) 受付・事務室

受付は患者さんとの大切な接点の場所です。受付の位置は患者さんにわかりやすい場所にあり、玄関・待合室全体を見渡せる位置が理想的です。

(5) 診察室・処置室

診察室は待合室からなるべく近く、出入口は待合室から直接内部が見えない工夫が必要です。患者出入口にはカーテンではなくドアを設け、診察中の会話が漏れない配慮が必要です。

設備としては、診察室には手洗い、処置室には流しが必要となります。

(6) スタッフルーム

スタッフルームは全体スペースとの兼ね合いで、一番しわ寄せのくる空間ですが、質の高い診療のために、ゆっくりと休める空間が必要です。設備としては、ミニキッチン・冷蔵庫・洗濯機・ロッカーなどが挙げられます。

(7) X線室

X線室は放射線防護のため床・壁・天井に鉛板で区画する必要があります。ドア・開口部についても同様な措置が必要です。

また、室内にカーテンなどで仕切られた患者の更衣するスペースを設けると喜ばれます。

機器・備品購入

機器・備品の選定購入

ポイント

あらゆる病気に対応する機器・設備を1つの医院で整備するのは効率が悪すぎて、過剰投資になってしまいます。

まずは全体の資金計画から投資できる枠組予算を確定し、自院の診療方針を絞り込んで、その範囲内で機器・設備を整備するよう心がけましょう。

1. 機器・備品導入の基本的な考え方と流れ

医院を建築するにあたって、どういう機器・備品が建築の際に付随してくるのか、医師本人は何を準備しなくてはいけないのか、まずその点が大切です。機器や備品は診療科目によってまちまちなので、参考となる書籍を読むなどしたうえで、細かくリストアップしていきましょう。

重要なのは、診療科目の中心となる機器です。エコーやファイバースコープ、X線など、百万円単位の費用がかかるものについては手持ちの資金に合わせ、購入またはリースの計画を立てていきましょう。

何が何でも一括で揃えるということでなく、順次、計画的にという考え方が大切です。当初はここまでと決め、その後、損益分岐点を超えた時点で、さらに必要となった機器を補っていくという形が望ましく、その機器用に当初計画の段階からスペース的な配慮がされていればベストです。

2. 機器・備品の選定から価格交渉まで

1つの医院であらゆる医療サービスに対応しようとすれば膨大な機器・設備を抱えなければならず、稼働率が悪く、過剰投資になりかねません。一方で、医療人である医師の立場からは「あれも欲しい、これも欲しい」とついつい過剰投資になりがちですが、まずは経営者としての立場で、全体の資金計画から、機器・設備に投資できる総枠予算を確定し、その範囲内で機器・設備を絞り込むことが過剰投資を防ぐコツです。

3. 導入品のリスト化

実際の開業では、高額な医療機器を導入したものの、稼働率が悪く、ほこりをかぶってほとんど利用していないケースも珍しくありません。とくに機器・備品類の必要度の判断基準は
①自院の診療方針・想定患者層に合っているか
②稼働率や採算面を踏まえた上での投資効果や費用対効果、コストパフォーマンスがあるかどうか
③地域の医療ニーズとして必要なものかどうか(他の病医院における設置・所有状況なども考慮)
④キャッシュ・フロー等の経営状況に応じて、購入するかリースにするか
といった点を総合的に考慮して判断します。

4. 予算との整合性確認

購入機器、設備・備品の予算化が組み終わった段階で、全体の事業計画との整合性チェックを行いましょう。ここで全体予算のバランスから過剰投資になっておらず、予算内に収まっていれば実際の購入段階へ進みます。ですが、多くの場合予算を上回るので、そのときは改めて必要度を加味し、購入をあきらめる物を選びます。

また、高額な機器・備品は多くの場合リースを活用して整備していますが、リースは初期投資の必要がない反面、安易な活用に陥りやすいので、利用時には、リースの料率、期間、限度額の有無の確認を行い、かつ開業後の収支計画表のリース費用見込みと整合性のとれた範囲以内に収まっているかを十分にチェックし、過剰リースになって収支を圧迫しないように注意しましょう。

また、少額の減価償却資産(取得価格10万円未満)や一括償却資産(取得価格20万円未満)については、リースを活用するというよりは、金融機関からの融資や自己資金で購入し、減価償却したほうが税務上有利である場合が多いので税理士などにアドバイスを受けながら進めるとよいでしょう。

5. 契約のタイミング

X線装置などの固定式据付医療機器や大型機器を導入する場合は、建築設計士とレイアウトやスペース等の打合せ段階から十分な検討が必要です。できるだけ早い段階で購入予定の医療機器のカタログや平面図、電源や給排水、付帯必要設備の有無などの資料を取り寄せ、使い勝手の良いレイアウトに仕上げることが大切です。

テナント開業の場合は、入居する建物と設備の限られたスペースの中で、医院に必要な機器・設備を準備する必要があるので、契約前には建築設備の専門家を現地に呼んで、天井高、電気容量、床耐荷重、給排水設備などを事前に確認し、整備が可能かどうか必ず打合せを行いましょう。

6. 設置前の注意事項とタイミング

契約した機器・備品は、建設工事の進捗状況に合わせてタイミングよく設置する必要があります。納品設置スケジュールのトラブル防止策として、建築スケジュールと機器・備品納入スケジュールを一体にした、詳細な全体工程表を建築施工業者と作成し、各納入業者に配布することをお勧めします。